遥かなる君の声 V K

     〜なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 



          12




 陽が落ちて闇が迫れば、人々は家へと帰り、それぞれの窓へと灯火を燈す。いよいよ宵が過ぎれば、明日を待っての眠りにつくが、灯火を消して眠りにつく時、心を迎えに来る“裡
うちなる闇”がありますよねとお話ししたら、少なくともこの国の人々は知らないようだとシェイド卿は教えてくれた。聖なる力というものを信仰以上の“存在するもの”として信奉している人々の国だから、同時に闇だの魔物だのもまた畏怖するに値する力を持っており、やたら取り沙汰すると招くことになると信じられているほどで。なので、自分の中に闇があるだなんて、なんと恐ろしいことだと感じるだろうし、そもそも思ってもいない。深く説けば、人の性さがのことという解釈となりもすることなのだろうが、この不思議な力が実在する大陸では、あまりやたらに口にしてはいけないと。やんわり言われたので納得し、それをずっと守っていた。それと一緒にもう一つ、お訊きしたかったことがあったのだけれど、それはとうとう訊けなかったな。夢というもの、自分は1度も見たことがなかったから、それって一体どんなものなのかと、卿からお訊きしたかった………。





            ◇




  《 聞こえませんか、誰か。ボクの声が聞こえませんか?》


 深い眠りへとすべり込む気配。か細い声。涙に溺れそうになった、切ない声。暗い森に囚われの身となっていた少年。そんな彼が、夜な夜な小さなカナリアに身を変えて、助けを求めるか細い声を放っていた。セナ様との出会いは、そんな不思議な声に招かれてのことだった。姿が見えた訳ではないが、確かに自分は眠っているのに、声は途切れず夜な夜な届いて。これが夢というものなのかと、初めて触れた機会でもあり、

  『進さん。』

 そんなせいかどうなのか、セナ様のお声が好きだった。少し舌っ足らずで、甘い、自信のなさげな幼い声。肩越しに振り返り、名を呼ばわりながら間近まで。何を見たのか教えにと駆けて来て下さる笑顔は、それは暖かで目映かったし、

  『進さん?』

 そんなところに離れていないでと。独りにしないでと呼んでくださる時の、少しほど切なげなお声を聞くと。不遜ながらも駆け寄って、大丈夫ですよと懐ろ深くへ掻い込んで差し上げたくなった。

『ボクが王族の子だったから。進さんは騎士様としてそんな血筋の人を探索中の身だったから。それで傍にいてくださったのでしょう?』

 確かにそのような使命を帯びていたけれど。そうだからと、ただそれだけで彼の傍らにいたのだろうか? あの方こそがずっと探していた皇子であると、そうと判ったのはあの南の果ての寒村へ辿り着いてから、更に随分と経ってからのこと。暗示というものが効いていた村人たちには、時折彼へとまつわる話に矛盾が見えて。それでと見通せたことだったのだが…そういえば、何故だろうか。それをご本人へ、確かめたいと思わないままでいた自分でもあったりし。

  ……………何故?

 先の王が薨
みまかられ、それまで姉妹のように仲がよかった正妃と側室の間が急に険しいものと化した。双方それぞれに、同じくらいの年頃の皇子がいらしたからだろうと、口さがのない周囲は囁き始めた。急なご逝去であったため、後継者への正式なご遺言もなく。これは後継者を巡る波乱が起きるぞと、皆がこそこそ囁くその後ろにも、何やら不穏な陰が見えた。これこそが、この大陸の人々が信奉する魔物や邪妖というものの気配かと、初めて感じたほどの不吉な暗雲は、あっと言う間に王宮を包み込み、痛々しい衝突はどんどん膨らんでゆくようだったが。たかだか一兵卒が何を思っても詮無いことと、やはり上官の指示に従うだけの身でいたところ、主城首都から秘密裏に出奔なされし側室様を、擁護する派閥の在所を討てと、見る見るうちに戦さが始まり、兵の統率の関係で将校が増やされて。自分までもが、主城とその近郊に配されて王族を守護する、近衛連隊の指揮を執る立場に立たされた。正妃はこの大陸の古い血統の出身、巫女でもいらしたがため、斥候を派遣せずとも相手陣営の布陣が見通せたのだそうで。それによって戦果は上々で、さして手間取ることもなく、側室が頼った縁者とやらを…外海の大国という大きな勢力を後ろ盾にした存在であったにもかかわらず、ほんの数年で沈黙させてしまい、和睦を取りつけ。依然として本人の行方が知れないままだった側室への助力を、事実上不可能なことにしてしまった。そんな手配をきびきびとこなされた正妃の帯びた陰が…何だか訝おかしいと気づけたのも、自分がこの国の力に馴染んだからこそのことだったのだろうが、いかんせん、そんな身だということを煙たがられて放逐され。その際に“実は…”と、やはり魔女の気配に気づいていた前の連隊長から、特別な使命を授かっての流浪の旅へと身を置いた…のであったのだけれど。それは、邪妖の影に狙われているやもしれない、高貴な血統の皇子様を捜し出して護れとの、使命あっての行動でもあり。

  ――― セナ様こそがその皇子だと、それと気づいて。なのに、どうして。

 自分が帯びていた使命を彼へと語らなかったのか。何も覚えていないことで平穏安寧を保たれているらしい彼の心を、余計なことで刺激して乱したくはなかったから? 身の危険を告げることで、どこか弱々しい彼を徒に怖がらせたくはなかったから、か?

  『ボクが王族の子だったから………。』

 自分がそのような使命をおびていたことを知ってしまい、それを偽っていたことへか、沈んでしまわれたセナ様だったのが、やはり…辛いことだった。セナ様が悲しいお顔になってしまったのは私にも辛いことだったから、だからこそ そうではないと、どうしてもその誤解だけは解きたいと思った。王族の皇子様だったから、傍らから離れなかった訳ではないと。命じられたことをただただ厳守して来ただけの自分が、恐らくは生まれて初めて。どこからか聴こえた切ないお声へ心惹かれて、関心を持ち。誰に言われるまでもなく、心動かされるままに、自分から手を伸ばして…あなたへと辿り着いたのだと。

  ――― 皇子であることも、光の公主となられる方だということも、
       全く知らないうちから、既にもう。
       この身に代えてもお護りせんと、お慕い申し上げていた御方だった。

 では。光の公主だから惹かれた自分なのか? 光を追うものという宿命があると、生まれ落ちた時にそんな使命を帯びていた身だったから。だから、セナ様に惹き寄せられた自分なのだろうか…?

  『進さんっ。』

 叶うことなら、あの懐かしいお声をもう一度聞きたい。か弱いセナさま。無事でおいでに越したことはなかったが、何か起きたときには、楯になる覚悟でお守り差し上げたし、頼って下さると胸が熱くなった。やわらかな甘い声。小さな手、細い肩。小さな長虫や蛇だけはどうしてだか怖がっていらしたが、それ以外の生きものは何でもお好きでいらした。そうそう、辛いものと寒いのが苦手で。それは綺麗なのに触れない雪を、ちょっぴり残念そうに、窓の外に眺めてらした。不注意や力不足からほんの少しでも怪我なぞすれば、ご自身が傷ついてしまわれたかのような、悲しくも辛そうなお顔になってしまわれて。
『ボクを守って…進さんが痛い想いをするなんて、いやです。』
 真摯な眼差しに見上げられるたび、ああ、もっと強くならねばと思ったものだった。

   ――― 今は…どうしておいでだろうか。

 小さなセナ様。可憐でお優しくて、手をお貸しすると、それは愛らしくも微笑んで下さった。触れることさえ畏れ多き、尊い御方。けれど、風や雪からお守りするのに、マントの中へと匿えば。含羞みながらも嬉しそうに、こちらを見上げて下さって。
『…暖ったかい。』
 こうしてると寒くなんかないですと、気丈にも笑って下さった。大切な御主
あるじ、大切な皇子様。自分が居なくなって、不安がっていらっしゃらないだろうか。彼の周囲にはいつだって、頼もしい顔触れが数多く居るけれど。それでも…あの笑顔が曇ってはいないだろうか。触れられぬものへの寂しさを噛みしめて、それは切なそうに眉を曇らせ、窓の外の雪をご覧になられておいでだった時のように。


   大切な御主
あるじ、大切な皇子、大切な………。










       ◆◆◆



 念咒封じの鋼鉄製の網は、搦め捕った対象へは効果もあって頑丈ではあったが、難点が全くない訳ではなく。
「鋼の組成よ、錬成した炎を光としてほどき、大地の素へ返れっ!」
 手加減はしなかった殴打だったから、骨までは届かずとも息が詰まってしばらくは動けまいと踏んでいた、なかなかな美丈夫な方の導師殿が。何とか頑張って紡いでいたらしき咒詞によって、その指先へと大地から集めた生気が…鋼鉄の網の端へと触れたそのまま、全体へ走ったは虹色の輝き。中へとくるまれしお仲間までもが少々唖然としていた段取りは、それだけかなり上級の術であったらしく、
「…っ!」
 目映いまでの輝きが、周囲の暗がりに呑まれて消えたのを追うように。金髪痩躯の導師を搦め捕ってた鋼もまた、その全てが さぁっと砂のようにほどけたから凄まじい。
「成程、やるもんだねぇ。」
 外からの働きかけには存外弱いと、よくも諦めないで試したことよと感心したものの。だがだが、そんな無理をしたからか。亜麻色の髪の導師様の方は、尚のこと、消耗も大きかったらしく。
「これでもまあ、微妙ながら一対一のままだ。ちょいと予定は狂ったが…。」
「さっきからごちゃごちゃと うっせぇんだよっ!!」
 こちらも倒れていたはずの、金髪痩躯の彼の方。それは素早くその態勢を整えていて。銀の三日月型に曲がっていた、不思議な形の守り刀が、ぶんと振った勢いで引き伸ばされたかのように、細身の剣へと姿を変える。それを逆手に握り直して、柔らかな膝のバネを一気に弾いたそのまんま。疾風のようにこっちの懐ろへと飛び込んで来た、瞬殺ものの奇襲の見事さは物凄く。
「………凄げぇな、あんた。」
 こっちの得物が2つで1組だってことも、忘れずにきちんと織り込んでたその証拠。いつの間にか左手へ、導師服の袖口に仕込んでいたらしい、頑丈そうな籠手を繰り出しており。手の先よりももっと先へと、長々はみ出させたその籠手で、サイの先、フォークのように分かれた切っ先を左右両方、まとめて搦めて受け止めることで、防御をがら空きにしたその上での短剣での突き立てが…うかうかしてたら胸板を抉っていたに違いなく。

  「もうちっとで惚れちまうとこだった。」
  「その前に今度こそ殺してやんぞ。」

 咄嗟に。搦め捕られて持ってかれたサイを見切って、片手だけでもと自由を選び、プレートの上に覗いてた喉笛を目がけての強襲を、その腕を差し渡すことで何とか防いだ。わずかにも躊躇のないまま、腕の真ん中を深々と突き通されたそのまんま。こちらも怯まず、楯にした腕ごと剣を引き下げたお陰様。突き抜けた剣の切っ先は、プレートの上へと誘導出来て。
「…チッ!」
 打ち損じたかと見切るのも素早い金髪の君は、サイの絡まったままな籠手をも見切る潔さにて。飛び込んで来たその身を今度は突き離す勢いを用いて、細身の剣の方も力任せに引き抜いて下さり。焼いた杭を突き通したような痛みは、だが、こっちの気勢を尖らせるにはむしろお誂えで。溢れ出す血が邪魔ッけだなと。肩のところで袖を継いでた紐を引いて解くと、肘に近いところにてグルグルと前腕を縛り上げる。紐の一方を歯で止めての作業をこなしながらも、
「どうした? そっちの奴を此処に残しておいて、先を急いでもいんだのに。」
 挑発半分にこっちから言ってやったが、そんなつもりはどういう訳だか、最初っから持ってはいなかったらしい。
“そうまでの仲良しさんだってか?”
 今の攻勢から察して、こちらの美人さんは情け容赦ない英断を身内へも下せる行動派だと見たのだが。それにしては詰めが甘いのが不自然だなと、気にかけつつも、止血を終えたとほぼ同時、
「哈っ!」
 咒とやらでの石礫が飛んで来たのへは、炎眼の一瞥を向ければ自分には当たらぬようにという回避が効いて。だが、そんな集中の隙を狙ったのだろう、こっちこそが本命の剣での薙ぎ払いも立て続けに襲い来る凶悪さと腰の粘りが、やっぱり只者ではない導師様たちを相手に。それでも何とか行く手を阻んでいれば、その背後から、向こうの増援が駆けて来た。
「蛭魔さんっ! 桜庭さんっ!」
「何だ? 二人がかりでたった一人に手古摺ってやがんのか?」
 わあ、選りにも選って、闇への一番の天敵様が駆けつけちまった。これでは時間稼ぎにも限度があるかと、阿含と名乗った敵方の彼が、苦々しくも笑って見せる。そんな彼らの手前を駆けて来た真っ白い狼が、この場の形勢を見て取ってか、ごつい四肢にバネをため、姿勢を低めて威嚇の唸りを放って見せたが。その程度ではさすがに怖じけぬか、
「確か怪我をなさってなかったかね。そんなに人手、足りてないの?」
 公主様直々の参戦とはねと、せめてもの反発を挑発もかねて投げかける。いかにも細い腕だろと思わせる、シャツの白い袖には痛々しくも、止血にと縛ったスカーフにまで滲んでる鮮血の跡が、この薄暗がりの中でも見て取れて。わざわざ案じてやったのに、
「こっちには治癒の陽咒が使えるんでな。」
 あのくらいは何てこたないと、太々しくも笑って見せた金髪の美人さんの…ちょっぴり当てこするようなお言いようへ、
「お言葉だけど、俺らだって陽咒は使えんだぜ?」
「ほほお。その眸をしちゃあいるが“闇の咒”との直
チョクの縁結びは、まだだって訳か。」
 もう炎眼の成り立ちまで知ってるなんてと、彼なりに感心したのだろうか。ちょいと意外そうに眸を見張る。
“やっぱ凄いやね、王宮づきの導師ともなると。”
 それにこっちの彼は、確か“金のカナリア”とかいう立場だっても聞いてるしね。何とか突破口をと狙ってか。短剣を鋭くぶん回しては挑みかかって来る金髪さんを躱しつつ、
「哈っ!」
 こっちからの反撃の突きを、片っ端から気弾で封じて回ってる、保護者気取りのもう一人の防御壁にチッと舌打ち。お仲間が二人掛かりかと呆れたように、どっちかが騎士を追って先へ行くという分断策をあくまでも取らなかったのは、すぐさま加勢が来ることを予測していたことともう一つ、企むものがあったらしい彼らで。
「進はこの先だっ。」
「はいっ!」
 何とも健気なやりとりだったが、そのまま進ませる訳には行かないと。弦楽器でも奏でるように、指を躍らせ。その上で尖剣のサイを、時間差をつけてそれぞれにくるりと回して身構えながら。狭い通路のその進路を塞ぐべく、横へと身をずらしかかったその眼前へと、

  「…っ!」

 不意を突かれた。凄まじいまでの光が溢れ、視野が一気に眩んでしまう。確か、城にても食らった目潰しの技で。
「行け、チビっ!」
 そんな声がして。後から駆けて来た二人分の気配が、一瞬も立ち止まらぬままに傍らを抜けたのがありありと判った。その足音が背後を境に響きを変える。明らかに、古くからあった窟の方へと移ったその証しを刻んで遠ざかる。

  「どうしたよ。」

 低い声が背後の窟内に響いて、独特な語尾を伸ばす。
「まさか全く同じフェイントがこうも効こうとは、俺の方だって思わなかったんだが。」
 いつの間にか膝を突いてたこちらを見やる、金髪黒衣の彼の傍ら。亜麻色の髪をした青年の方が、背中の痛みが少しは引いたのか、何とか膝立ちという格好にて身を起こしており、瞬光の咒の陰にて別な攻撃咒のための生気を溜めて身構えていて、
「お前らにはまだ、闇の咒の使い手を食いつぶす陽咒が決定的な効きようを見せないらしいから。それなりの大きさのをと練らせといた。」
 ただそれへは印を切る必要があって、それを見られては抗性の咒防御をされかねないから。それもあっての瞬光の咒だったのだがなと、くつくつ笑い、
「あいつを…切り札の寝とぼけ騎士の野郎を手に入れたんで、せいぜい緩み切ってやがったのか?」
「さあ、どうだかな。」
 見事な見栄を切られたものの、そもそも、どんな性分のどういう騎士かだなんて、
“ろくに知らないままだしねぇ。”
 それに…もはや、城で見聞していた“進清十郎”ではなくなっているようだし、と。胸の裡にて言い返しかけたものの、
“………。”
 自分と同じ、赤い炎眼でこそあったけれど。あの騎士は、まだ覚醒した身ではないのかも知れないと、何となく思う阿含でもあって。グロックスに招かれたからと動き回ってこそいるが、当人の魂とやらはまだ、元の仕様へ再生され切っていないのではなかろうか?
“あの気配は凄まじかったからな。”
 物音がしたからと駆けつけた祭壇の間。そこに満ちていた、底知れぬ殺気や禍々しいあの気配。それと思うだけで、肌の上への生々しい感覚としてすぐさま再現出来るくらいに、この自分が圧倒されてしまったほどもの凄まじいものであり、
“敵味方の見分けがつかないなんてな、制御不能の危ない太守様になるって話は聞いてねぇが。”
 回帰の咒は完了してはいないのか? それと、もしかして…。彼が先
せんに一度、その魂を潰えさせた折に、光の公主に施されし“反魂回帰の咒”とやらは。その肉体へ丸きり別な魂を、一から植えつけたような咒なのではなかろうか? いやいや、そんな乱暴な、意味のないことを持って来て“回帰”と呼ぶような、心ない連中ではなかろうに。

  “心ない連中ではなかろうに…か。”

 物凄い物差しで物を言ってる自分への、救いようのない苦笑がついつい口唇の端へと滲む。そんな連中だと見込んでいるとは。だから…先程から、殺してしまうための動線を選べず、それがために手古摺っている自分なのか。
「よそ見とは余裕だなっ!」
「おっと。」
 眼前すれすれで冷たく閃いたは、顔の真ん前という間合いにまで詰めて来ていた相手が、横薙ぎに払った剣の切っ先が残した銀の軌跡。相手の繰り出す切っ先も、どこかで似たよな思いを抱えているのか、どこか甘いのをいいことに。ざっくり殺すより複雑な、時間稼ぎのための攻勢しか繰り出してない。時折見える隙や好機もあるにはあるが、手負いにするだけでは済まないだろうものだというのも判るから。わざと見切って身を躱せば、険しく尖ってなお麗しい、金髪の君の表情が、その度ごとに何とも口惜しそうに歪んでしまう。
「遊んでんのかよ、さっきから。」
 おや、さすがに気づいていたかと。それへこその苦笑を振り向け、
「さてね。俺らにしてみりゃ、闇の太守様さえ降臨なされば、あんたら全員、あとで一括してねじ伏せられるから。」
 ひゅんっと。手元でサイを回してもてあそぶ。恐らく僧正様は最下層の聖域におられようし、兄者は上級者たちと共にその前の扉をお護りしているはずで。だから、あの騎士が追っ手から逃げ切り、グロックスを抱えたままにてそこへと飛び込んでしまえれば、余裕でこちらの勝ちとなる。
「こんな風にそりゃあスリリングな斬り合いを体感するのなんて、何年振りかのことだもの。堪能させてくれたっていいじゃない。」
 ああそうだよ、遊んでんだと。俺なりにはっきり言ってやれば、きりきりと尖る細い眉やらきつい面差しが何とも言えない。


  「眸への焼きつきも消えて来たことだし。さあ。ゲームの続きといこうか。」









←BACKTOPNEXT→***


  *しまった、前の章と同じ引きじゃないか。